スタートアップ企業は小規模な会社であることが多いため、他の企業と提携したり、大学などの研究機関と共同研究を行ったりすることも想定の上で技術開発を行うことになります。
その際、連携先との間で知的財産の扱い方をどのように契約書に盛り込むかが重要な課題の一つになります。 スタートアップ企業を対象としたアンケートによると、連携時における知的財産は「権利」に関する問題が起きやすい傾向にあり、特に、「学術研究、専門・技術サービス業」では実施権について課題ありとの回答割合が多くなりました。
以下では、弁護士法人内田・鮫島法律事務所が実施した「技術法務」の事例を紹介しています。
Platform型ビジネスを指向するバイオスタートアップについて、モデル開発と発明発掘及び契約書ひな形の作成を有機的一体的に行った事例です。
バイオスタートアップのA社は、薬剤を特殊な膜構造を有するカプセルで体内の特定の箇所に届けるシステムを開発しようとしています。さまざまな薬剤を用いて行われる研究開発には他社との共同研究が不可欠なことから、既に出願した特許に加えて共同研究前に出願した方がよい特許や、共同開発研究契約の締結における注意点を知りたいと考えています。
A社はカプセルの骨格を形成する物質についてのみ特許出願を行っていますが、共同研究で得たデータを基に、後に改良発明の出願をすることも予定しています。この場合、最初の出願時に改良発明の内容まで詳しく記載すると、最初の出願が公開されてしまった場合、既に公知の発明であるとして後の出願が拒絶されたり、そもそも実証データの裏付けがないとして先の出願が拒絶されたりする怖れがあります。先の出願の明細書に改良発明についての記載をする際は、記載する内容と記載のしかたに注意が必要です。
共同開発研究契約締結については、秘密保持義務をどうするかがポイントです。本件では契約の相手方から厳しい契約条件が提示されているのですが、スタートアップであるA社はこれを機に他企業にもアピールできることを期待して、条件を呑むつもりです。となると、自社に不利な契約内容は秘密情報として保護し、一方共同研究をしている事実については秘密情報としない形にするとよいでしょう。
また、研究から生まれた成果物知財は最低でも共有とするよう粘り強く交渉しましょう。 最後に、発明の性質上複数の企業と並行して研究を行うことを前提に、競業避止とする研究範囲を出来る限り限定しておくことも大切です。
汎用性がある技術に関し多数のユーザー企業との共同開発を行うために、知的財産権の帰属、ライセンス条件等を整理した事例です。
B社は、自ら開発した新素材で、現在C社との運動靴底の共同開発を予定している一方で、D社からも新素材を使用した登山靴の技術検証を依頼されています。B社はC社との共同開発で生じる知的財産権の帰属や、D社との共同開発において生じうる問題点について知りたいと考えています。
C社は、共同開発で生じた成果物の知的財産権の帰属を自社にするという契約内容を求めてくる可能性がありますが、B社は成果物が他にも使える汎用性を持つと考えており、B社帰属としたい考えです。この場合、B社としてはC社の利益に十分配慮しつつ、成果物の新たな使用可能性を模索できるよう、帰属はB社に、成果物の運動靴底での利用は相当期間C社に独占させるという内容で交渉するのが得策です。
もし知的財産権をC社の帰属とし、その後D社との共同開発で仮に同じような成果物が生じ、C社の場合と同様、D社に権利が帰属するとした場合、C社とD社が特許を受ける権利について対抗関係となり、C・D社ともにお互いの承諾がないと事業展開できないという状況を招くおそれがあるからです。
また、B社はスタートアップ企業であるため、M&AによるEXIT(創業者やVCなどの投資家などによる資金回収)の可能性があります。 交渉には以上のような事情も説明すると説得力が増すでしょう。


スタートアップの知財支援では、まず自社の技術について特許出願をするかどうかの判断から始まり、その後、大企業や大学などとの連携を通じて事業化を進めていきます。事業が軌道に乗れば、IPOなどのエグジットも視野に入ります。
大学発スタートアップの場合は、大学が保有する特許のライセンスを受ける交渉が先に必要になることもあります。
本記事で紹介した2つの事例のうち、1つ目は自社技術の出願に関する内容、2つ目は他社との連携に関するポイントが中心です。
どちらにも共通するのは、知財の権利の帰属や競業避止義務などについて、できるだけ有利な条件を獲得し、スタートアップとしての「事業の自由度」を確保することがいかに重要か、という点です。
これは将来的に投資家の判断材料にもなるため、極めて慎重な対応が求められます。そのため、「事業の自由度」を法務と知財の両面から確保・維持できるよう、専門家のサポートを受けながら体制を整えることが、将来の成長を支える強固な基盤となるでしょう。
※上記の事例は、以下の書籍から抜粋、再構成して紹介しています。
『オープンイノベーション時代の技術法務~スタートアップの知財戦略とベストプラクティス』(日本加除出版株式会社)
弁護士法人内田・鮫島法律事務所の代表弁護士/弁理士鮫島正洋 編集代表
2024年6月28日初版発行
事例1:pp.55~75、事例2:pp.171~187参照