弁護士法人 内田・
鮫島法律事務所とは
スタートアップの企業価値向上のための 「技術法務」ナビ » 【課題別】技術法務のコンサル事例 » 実施権をめぐる問題

実施権をめぐる問題

このメディアは 弁護士法人内田・鮫島法律事務所をスポンサーとして、Zenken株式会社が運営しています。
目次
  • 大手からの独立(スピンオフ)
  • 実施権
  • ライセンス
  • 専用実施権
  • 非独占的通常実施権
  • 通常実施権

スタートアップ企業は、自社の技術発明が知的財産となり得るかについて更なるデータが必要なとき、あるいは自社の製品を量産化したいときなどに、他の企業や機関との共同研究や事業提携を検討することになります。それら共同研究・連携時において課題となるのが知的財産の取り扱いであり、特に設立3年以内のスタートアップ企業では、「実施権」を課題とする割合が多くみられます。

参照元:【PDF】特許庁「スタートアップが直面する知的財産の課題に関する調査研究報告書」(令和3年度)
https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/startup/document/index/startup_r3_hokoku_bunseki_02.pdf)

※特許庁が359 社(INITIALデータベース、IPAS、J-Startup 選定企業のリスト3,619 社のうちの有効回答数)に実施したアンケート結果(令和3年度)

特許権者は、特許にかかる発明を実施する権限を専有します(特許法第68条)が、特許権者以外でも、特許権者から実施権の許諾を受けることができれば当該発明を実施することが可能です。スタートアップ企業が特許権者、相手方である連携・共同研究先が大手の場合だと、これらの実施権について、契約締結時に相手方が強気の請求をしてくるケースが少なくないようです。

また、スタートアップ企業はどういった特許を有しているかはもちろんですが、どの種類の実施権(ライセンス)を有しているかも、企業価値の重要な判断ポイントとされるようです。

以下では、弁護士法人内田・鮫島法律事務所が実施した「技術法務」の事例を紹介しています。

技術法務の事例:大手メーカーから独立するケース

大企業からスピンオフして創業するスタートアップ企業が当該大企業から譲渡を受ける特許権を検討し、特許権保有態様及びベンチャーキャピタルからの投資契約を完投した事例です。

相談内容・課題

A氏は大手メーカーB社を退職し、測定デバイスを扱うスタートアップ企業を設立しようとしています。A氏は退職時にB社が保有しているが使用する予定のない特許を複数譲り受けており、通常なら自身が設立した会社(C社)が当該特許を保有すべきところ、A氏はさらに別会社(D社)を設立してそちらに特許を保有させ、C社にライセンスする形を採りたいと考えています。

アドバイスのポイント

A氏としては、C社が使用しない特許を他社にライセンスしやすい方法として、D社の設立を考えました。もちろん両社共にA氏が全株式を保有するため問題はないように見えますが、C社の出資者は、C社が直接特許権を持たないことに不安を持つかもしれません。

そこで、D社からC社へのライセンスを専用実施権または独占的通常実施権として、両社の関係に安定性を構築するという解決策が考えられます。

技術法務の事例:大手メーカーから独立するケース

専用実施権は特許庁への登録により設定され、その設定された範囲内で特許権者と同様に権利行使することができます。また、特許権者は自ら当該特許を実施することも、専用実施権者以外の第三者に重ねてライセンスすることもできません。
一方独占的通常実施権は当事者同士の契約で設定されるものであり、他の第三者にライセンスしない点は専用実施権と共通ですが、侵害行為などに対し自ら権利行使ができるという明文の規定はないため、出資側が慎重になるのも無理がないといえます。

A氏は、専用実施権とすると、登録が必要となるので、C社がライセンスを受けている事実を第三者に知られてしまい、好ましくないとの考えでしたが、C社の企業価値を高め、出資を受けやすくするには、より確実性の高い専用実施権によるライセンスを選択した方がよいでしょう。

なお、実施権には「非独占的通常実施権」という態様もあり、一般的な「通常実施権」といえばこちらを指します。特許権者は、通常実施権を他者にライセンスしても、自ら当該特許を実施できますし、別の第三者に重ねて通常実施権を設定することもできます。

※上記の事例は、以下の書籍から抜粋、再構成して紹介しています。
『オープンイノベーション時代の技術法務~スタートアップの知財戦略とベストプラクティス』(日本加除出版株式会社)
弁護士法人内田・鮫島法律事務所の代表弁護士/弁理士鮫島正洋 編集代表
2024年6月28日初版発行、pp.76~87参照

『オープンイノベーション時代の技術法務』

監修者 解説

技術法務解説
Sponsored by
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
技術法務解説
Sponsored by
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
解説:弁護士法人内田・鮫島法律事務所 代表弁護士/弁理士 鮫島正洋 氏

専用実施権と独占的通常実施権は、どちらも「独占ライセンス」と呼ばれるタイプの実施権です。実務上の大きな違いは、侵害者に対して差止請求ができるかどうかです。専用実施権にはこの権利(訴権)があるため、ライセンスを受ける側にとってはより安心といえますが、実際にはあまり多く使われていません。

その理由の一つに、専用実施権は特許庁への登録が必要で、その内容が公にされてしまう点があります。どの企業に独占ライセンスを与えているかは、多くの企業にとって重要な機密情報であり、公表されることを嫌がるためです。そのため、大学や国立研究機関など、情報公開に対して懸念の少ない組織での利用が中心となっています。

また、特許権者にとってのリスクとして、ライセンスを受けた企業が十分に特許を活用しない可能性があります。この場合、期待した実施料(ロイヤリティ)が得られないばかりか、他社へのライセンスも制限されるため、特許収益の最大化が困難となります。

こうした事態を避け、ライセンス戦略を成功させるために、最低限の実施料(ミニマム・ギャランティー)を契約で定めておくことが極めて有効です。ライセンシーとライセンサー双方の事業リスクを精緻に分析し、バランスの取れた契約を設計するためには、実務経験豊富な専門家のサポートを得ることが、事業の安定性を高めるための有効な手段となるでしょう。

▶運営会社情報