
企業にとって知的財産が重要であることはどの業界においても変わりありませんが、製造業においては特に重視される傾向があります。
スタートアップ企業を対象とした調査結果をまとめた特許庁の「令和3年度特許庁調査研究報告書」によると、知的財産を会社設立時から「極めて重視している」「ある程度重視している」と答えたのは、製造業で計94.7%に達しており、全社が重視していると答えた医療・福祉業に次ぐ高さになっています。また、知的財産において重視する点を尋ねた設問に対する製造業の回答は、「競合企業の追随や参入を防ぐ力」が89.1%、「資金調達の際の評価への影響」が69.1%、「中堅・大企業との提携における交渉力」が59.1%と他業種に比べて高い数字となっています。
つまり、製造業では、経営上の課題となっている競合対策や資金調達、提携先選びでの交渉力獲得を目的として、会社設立当初からほとんどのスタートアップが知的財産を重視しているのです。以下のコンサル事例を参考にしてください。
以下では、弁護士法人内田・鮫島法律事務所が実施した「技術法務」の事例を紹介しています。
大企業の顧客も見つかり、量産プラントの構築や事業化の段階に移行しようとしているベンチャー企業への知財の分析・コンサルティングの事例です。
創業者が大学院時代から研究してきた材料プロセスを事業化するために設立されたベンチャー企業であるA社。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などの公的資金を得て、パイロットプラントの構築からサンプルワークへと進む中で大企業の顧客も見つかり、量産プラントの構築をはじめとする事業化の段階に移行するに当たって、知財戦略や契約審査などを総合的にアドバイスしてくれるコンサルティングオフィスを探しています。
内田・鮫島法律事務所の「技術法務サービス」では、知財戦略や企業法務全般のアドバイスをシームレス、かつ、ワンストップで実施し、企業の競争力向上を支援しています。知財面に関しては、A社の特許ポートフォリオが技術市場の中でどんな位置づけにあるのか、また契約面では事業プロジェクトごとにスキームやリスクを詳細に検討し、押さえるべき契約条項や交渉の進め方などをアドバイスし、契約書にまとめていきました。
このベンチャー企業では、創業者が大学院時代に出願した特許が基本特許になっていますが、既に出されている十数件の特許のいくつかは「必須特許」(※)であると認定可能です。追随する大企業は国内に存在せず、海外企業が出願し始めているプロセスもA社の特許の後発に当たるため、ベンチャーキャピタルに対しては「当社への投資はリスクが相対的に低く、市場の伸びによっては高い利回りが期待できる」との説明が可能です。
ここでいう必須特許とは、ある技術を実施するため、もしくは、ある製品を生産するために実施せざるを得ない特許のことを言い、その製品にかかる必須特許を取得することが市場参入への切符であると考えます。(必須特許ポートフォリオ論)
知財と法務は必須かつ一体化された問題であると感じてきましたが、適切な専門家に巡り合うことがありませんでした。内田・鮫島法律事務所の「技術法務サービス」は、まさに理想像に近いものです。かかった費用は月額10万円程度の顧問料に超過料金を加えても年間300万円程度の予算計上で済むものです。技術法務に対する見識があり、安心して相談ができました。
特許出願せず、ノウハウとして秘匿する戦略(先使用権を意識したノウハウ戦略)を採用した事例です。
電気工業製品向けの化学材料メーカーで、売上が200億円に達するB社は、技術開発するごとに特許権を出願、既に取得した特許は約300件に上ります。今回、新たに複数の化学物質を組み合わせてできたシールド部材を使ったシールドモジュールの開発に成功したことから、特許出願の要否を検討するため内田・鮫島法律事務所を訪問しました。
今回は、B社の強みとなっている技術を生かした開発で、事業戦略上も重要なうえに、他社の参入も容易に想像できることから、後発参入を牽制するという視点からシールドモジュールについては特許出願の対象として良いと考えます。ただし、シールド部材にかかる化学物質の組成比率は、侵害を検出するのが困難であり、特許を出願するとかえって組成比率が公開されて模倣されるリスクがあるため、ブラックボックス戦略を採用するのが良いでしょう。
ブラックボックス戦略を採った場合、他社が出願するかもしれないシールド部材にかかる化学物質の組成比率の特許に対抗すべく、先使用権が認められるような情報管理をする必要があります。他社の特許出願前から「事業の準備」をしていたと立証できれば特許権侵害とはなりません。この「準備」は一定の研究・試験が行われ、試作品ができれば良いとされていましたが、近時の判例では「事業内容の確定まで必要」との判断が示されており、事業内容の決定プロセスも保存しておく必要がある点には注意が必要です。
当社の技術情報管理に関し、情報漏洩の問題には十分対処できていると考えていましたが、先使用権に関しては想定よりシビアに管理する必要があることが分かりました。内田・鮫島法律事務所の弁護士は知財訴訟にも取り組んでおり、直近の判例も踏まえたアドバイスをいただけるのでありがたいです。


企業、特に製造業における知的財産は、競争力を維持し、成長するための重要な資産です。その中でも「その製品にかかる必須特許を取得することが市場参入への切符である」と表される「必須特許ポートフォリオ論」は、製品開発や市場参入を検討する上で、極めて重要な概念と言えます。
「必須特許ポートフォリオ論」における、必須特許とは、ある技術や製品を製造するために、他社が保有する特許を避けることができない、つまりその特許を使用せざるを得ない場合の特許を指します。
製造業において新製品や新技術を開発する際は、複数の特許が関与するケースが多く見られます。それらの中でも必須特許を確保していなければ、事実上、市場参入が困難となる場合があります。
例えば、ある技術を使って新製品を作ろうとした際、その技術に関連する特許を他の企業が所有しているならば、それらの特許をライセンス契約で取得しない限り、製品を生産することができません。
企業が保有する特許の集合全体である特許ポートフォリオを適切に管理し、必要な特許を確保することは、競争優位性を高め、市場での地位を盤石にするために不可欠であると考えられます。特許ポートフォリオがしっかりしている企業は、他社とライセンス契約を結んだり、特許を交換することで、事業の発展を支え、さらに新たな収益源を得ることができます。
一方で、必須特許を持たない企業は、特許を持っている企業に依存せざるを得ず、技術面や経済面で不利な立場に置かれる懸念があります。そのため、製造業が技術革新を継続する上では、知的財産の管理や特許の取得について、専門的な見地からの検討が必要になります。
特許は、単なる技術の保全手段としてのみ捉えるべきではありません。それは企業戦略の一環であり、市場での優位性を確立し、競争をリードするための重要な手段として位置づけられます。
知的財産の管理は、製造業にとって単なるリスク管理の枠を超え、企業の成長と競争力を支える基盤と言えます。未来の市場で確固たる地位を築くためには、知財を経営戦略の中核に据え、専門的な知見を持つパートナーと共に戦略を構築していくことが、成功への鍵となります。
※上記2つの事例は、以下の書籍から抜粋、再構成して紹介しています。
『技術法務のススメ~事業戦略から考える知財・契約プラクティス』(日本加除出版株式会社)
弁護士法人内田・鮫島法律事務所の代表弁護士/弁理士鮫島正洋 編集代表
2022年7月第二版発行、事例1:pp.401~405、事例2:pp.416~419参照