スタートアップは人員や予算の関係もあり、他社と共同開発研究をする機会がよくあるところ、その際の課題として「バックグラウンドIPの取り扱い」をあげるスタートアップが一定の割合で見られます。
バックグラウンドIPとは、スタートアップが共同開発開始以前から保有していた、あるいは共同開発とは別に並行して行っていた研究で成された知的財産のことです。
これに対し、共同開発研究の過程で生じた知的財産はフォアグラウンドIPと呼ばれます。二つのIPはそれぞれ取り扱いに注意が必要です。
バックグラウンドIPは、共同開発の相手方にとって魅力的な存在です。自社にないバックグラウンドIPにより、自社にとって画期的な製品が開発される可能性も期待できるからです。バックグラウンドIPを有するスタートアップ側も、相手方が大手であれば共同開発者としての実績を得られたリ、開発費用を負担してもらえるなどのメリットがあります。
バックグラウンドIPの取り扱いに関して、特に相手側から提案される共同開発契約では、スタートアップに著しく不利な内容になっていることがあります。
例えば、大手側が共同開発で得られた成果の実施のために必要なバックグラウンドIPについて無償で実施できる、というような条項です。スタートアップが保有するバックグラウンドIPはスタートアップがリスクテイクして研究開発投資したことによって生まれた知見であり、投資回収の側面からは本来的に無償許諾になじむものではありません。、したがい、開発費用を負担してもらうからやむを得ない、などという安易な理由で受け入れるのではなく、別途実施許諾の対価に関する条項を求めるなど、交渉すべきところは交渉しましょう。
交渉を円滑に進めるためには、共同開発前にバックグラウンドIPを保有していたことを証明するため、契約前に特許出願しておくことは、バックグラウンドIPが共同開発の成果物であるフォアグラウンドIPと一緒にされてしまう(コンタミネーションを生じる)ことを防ぐ一手になります。
フォアグラウンドIPは、権利の帰属が一番の問題です。共同開発で得られた新たな知的財産の成果物を開発者間で共有する、というのは一見すると一般的で公平なように見えます。しかし、共有の場合、注意が必要です。
共有の場合、特許権の持分の譲渡や第三者へのライセンス許諾が共有者の同意なくできないという法律上の規制(特許法第73条)があります。これは、特にスタートアップ側にとって、ライセンス許諾によるビジネスの拡大や、資本回収のために行うM&Aでの事業売却(Exit)の大きな制約となるリスクがあるのです。
したがって、共有とすることはできる限り避けるべきでしょう。そのためには契約での取決めが重要です。例えば他に転用可能な汎用性のある技術部分についてはスタートアップに、開発の目的である製品に固有な技術については大手企業に、それぞれ単独所有させる、という双方が分野別に単独所有するという契約には一定の合理性があります。また、すべてのフォアグラウンドIPについて、スタートアップの単独所有とさせ、その代わりライセンスについては大手に配慮した内容にする、というような規定も考え得ると思います。
スタートアップにとっては、バックグラウンド、フォアグラウンドどちらのIPも、共同開発研究時の取決めで将来のビジネスに大きく影響が出てきます。知財契約に詳しい専門家に相談するなどして、慎重に検討するようにしましょう。


共同開発契約では、バックグラウンドIP(各社が元々持っている知見)とフォアグラウンドIP(共同開発の成果)を明確に区別して管理することが肝要です。 バックグラウンドIPは本来、自社の知見であり、公表や特許出願は自由にできるものです。
ところが、管理が不十分だと、相手方から「それはフォアグラウンドIPだ」と主張されるリスクがあります。 そうなると、本来自社の知見であるはずのバックグラウンドIPが、共同開発契約のルールに縛られ、相手と共有になったり、公表や特許出願が制限されるといった、技術系ベンチャーにとって事業の根幹に関わる重大な支障を招く恐れがあります。
このような事態を防ぐには、共同開発契約を結ぶまさにその時点で、自社がバックグラウンドIPを保有していたことを「証明できる状態」にしておくことが極めて重要です。 最も確実な手段は特許出願ですが、すべての知見が特許に向いているとは限りません。 その場合は、ラボノートへの記録やタイムスタンプの取得など、別の方法で証拠を残しておくことが推奨されます。
この契約締結前の「バックグラウンドIPの特定と証拠化」こそが、共同開発における防御策の要であり、技術ベンチャーの生命線を守る法務の核心であると考えています。
そのため、早い段階から専門家と連携し、確実な証拠保全を行っておくことが、自社の技術を守り抜くための最良の策となるでしょう。