自社の技術や製品が特許権に関わってくる企業では、特許調査をしっかり行いたいものです。特許調査には、自社の発明が既に出願されて公開されており、公知のものではないかということを確認したり、どういう競合が参入しようとしているかというマーケティング的な判断材料にしたり、逆に自社の技術が他者特許を侵害していないかを確認したりと、目的によってさまざまな目的があります。
しかしながら、スタートアップ企業では具体的にどういった調査をすればよいのか、また調査結果をどのように活用すればよいのかが分からないという声があり、知的財産における課題の一つとなっています。
特許調査は、どのような目的で行うかを明確にし、目的に合った方法で行うことが大切です。そして調査して終わりでなく、結果を企業戦略の方向性や効率化に活用できるよう、正しく分析しなければなりません。
以下では、弁護士法人内田・鮫島法律事務所が実施した「技術法務」の事例を紹介しています。
大企業の顧客も見つかり、量産プラントの構築や事業化の段階に移行、3年後をめどに上場も視野に入れているスタートアップ企業に対する知財の分析・コンサルティングの事例です。
創業者が大学院時代から行ってきた材料プロセスの事業化のために 設立されたA社は、大手の顧客を持ち、近い将来上場も視野に入れているスタートアップ企業です。
A社の社長は事業が大きくなるにつれ、知財戦略をもっとしっかり行わなければならないと感じています。A社は特許を十数件持っていますが、これまで包括的な特許調査は行っていませんでした。
特許調査は、先述したようにいくつかの目的で行うものです。このケースでは、知財戦略の一手として、自社ビジネスのアピールポイントとして自社の特許の強みをチェックする目的で行うことになります。
A社が採用するプロセスについては、A社社長が最初に取得した特許が当該技術領域における「基本特許」であり、他に保有するいくつかの特許が必須特許(特定の技術や特定の製品生産の実施に欠かせない特許)であることが分かりました。
そして、A社のプロセスと技術的に近似する発明にかかる出願を始めている海外の企業はあるにせよ、それらの企業は日本での出願にはまだ至っていないことも確認できました。
これらの分析から、A社は自社のプロセスを「世界的に見てもユニークかつ先端性がが高いものであり、この技術について強力な特許ポートフォリオ(知的財産権の束)を有しているので、日本市場で後発企業が参入することは容易ではなく、結果として、当社の市場シェアの安定が図れるものとなる」とのプレゼンが行えるようになりました。特許調査の結果を、ベンチャーキャピタル(VC)に対し、自社へ投資することのリスクの少なさと高い利回りへの期待をアピールする材料にすることができたのです。
以上のように、特許調査では当該特許が保有会社にどのような利益(あるいはリスク)をもたらし得るかという分析を行うことも可能です。ただしそのためには、知的財産権に関する知識だけでなく、ビジネスとの関連性をも含めて調査・分析できる専門家に依頼することが大切です。


スタートアップが成功を目指すうえで、特定の分野でトップの地位、いわゆる「ニッチトップ」を狙う戦略はとても有効です。そして、その戦略を強力に支えるのが特許調査です。
他社がまだ参入していない分野を特許情報から見つけ出し、そこに的を絞って技術開発と特許取得を進めることで、自社が唯一その分野に特許を持つ状態をつくることができます。
この状態がニッチトップであり、事業の競争優位性を確保するための強力な武器になります。
たとえ他社が後から参入してきても、自社のシェアが50%を超えていればニッチトップの地位は維持できます。
この考え方は、内田・鮫島法律事務所がスタートアップに対して知財デューデリジェンス(知財DD)を行う際の基本指針となっています。
投資家や金融機関から見ても、そのような独自性と特許による参入障壁がある企業は将来性が高く、投資対象としての評価が高まる傾向にあります。逆に、競合が多い技術領域に参入している場合、他に強みがないと優位性を示しにくく、投資判断も慎重にならざるを得ない側面があります。
知財戦略は、単なるリスク管理の枠を超え、企業の成長を牽引する重要な経営戦略と位置づけられます。特許調査を通じて、自社の強みと市場での立ち位置を客観的に把握し、戦略的に活用していくことが肝要です。
新技術の権利化や、それに伴うリスクとリターンのバランス検討など、高度な判断を要する局面においては、知財や法務の専門家へ相談し、客観的な助言を仰ぐことが望ましいでしょう。
※上記の事例は、以下の書籍から抜粋、再構成して紹介しています。
『技術法務のススメ~事業戦略から考える知財・契約プラクティス』(日本加除出版株式会社)
弁護士法人内田・鮫島法律事務所の代表弁護士/弁理士鮫島正洋 編集代表
2022年7月第二版発行、pp.401~405参照