学術研究、専門・技術サービス分野では、製造業などと同様に、知的財産を会社設立当初から重視する傾向があります。スタートアップ企業を対象とした調査結果をまとめた特許庁の「令和3年度特許庁調査研究報告書」によると、会社設立時に知的財産を「極めて重視している」「ある程度重視している」としたのは計91.9%に達し、医療・福祉業(計100%)や製造業(計94.7%)に次ぐ高さになっています。さらに調査時点では計97.3%にまで上昇しており、会社を運営する時間とともに重視度が上がっていったことが分かります。
知的財産において重視している点に関する設問では、全業種で80%以上の企業が重視しているとした「競合企業の追随や参入を防ぐ力」のほか、特に学術研究、専門・技術サービス業では「知的財産のライセンスによるキャッシュ・インの創出力」が高い割合(69.4%)で、他業種よりも突出して高い割合となっています。中堅・大企業との提携における交渉力を挙げた社も目立ちました(63.9%)。以下のコンサル事例を参考にしてください。
以下では、弁護士法人内田・鮫島法律事務所が実施した「技術法務」の事例を紹介しています。
大学に在籍中の教員が大学保有の特許を活用してスタートアップを立ち上げる場合のライセンスの条件やロイヤリティの料率を検討した事例です。
A大学に在籍する教員Cが自身で発明した電子部品の特許を実用化させるために、スタートアップの立ち上げを考えています。スタートアップにおいてA大学保有の電子部品の技術を活用することで、サーバやPCの大幅な省電力化が可能になります。
大学が保有している特許をライセンス化することは、大学側にとっても、そのライセンシーが大学発であることをアピールできるメリットがあります。A大学としても、スタートアップの立ち上げを後押ししており、ライセンスについて、それなりのロイヤリティを期待していました。
A大学が保有する特許は、教員Cが立ち上げるスタートアップが開発する製品にとって必須特許です。
A大学が保有する特許のうち、教員Cが発明に関わった特許は200件以上あり、そのうちスタートアップにおいて製品を作る際に必ず実施しなければならない必須特許は10~15件程度ありました。
A大学は、教員Cの要望通り、必須特許10~15件に対しては、独占的通常実施権を設定し、第三者が使用できないようにすることを許諾。それ以外の特許については非独占的通常実施権を設定し、ロイヤリティを低額にして差をつけるという提案をしました。
一方で、難しい問題もありました。 教員Cが立ち上げるスタートアップは、①電子部品にかかる製品製造を行うビジネス、②回路設計を請け負うビジネス、③部品の構造や回路設計をライセンスするビジネスという3つのビジネス形態をとっています。 このうち、①について電子部品メーカーで特許発明が実施される場合、A大学のライセンスは、電子部品メーカーにとってはサブライセンスにあたるため、ロイヤリティの料率を変更しなければなりません。
しかし教員Cからは、料率を変えた場合、特許ごとに煩雑な調査や集計が必要となるため、定額で支払う方法を提案されました。 検討した結果、大学側にとっては、売り上げが低額にとどまった場合でも一定額のロイヤリティが確保できるメリットがあることから、合意に至りました。
大学が保有している特許をライセンス化することは、大学側にとっても、そのライセンシーが大学発であることをアピールするメリットがあります。 この契約はスタートアップ側も、売り上げが高額になってもロイヤリティが定額のままでよいメリットがあり、Win-Winの契約となりました。


大学は、もはや単なる高等教育機関ではありません。かつての「論文を発表する場」から、イノベーションの源泉となる「技術」を生み出す、社会変革のエンジンへとその役割を急速に進化させています。
イノベーションとは、単なる先端技術やビジネスモデルではなく、それが社会に「実装」され、「変革」をもたらすこと。その最もダイナミックな担い手が、大学発スタートアップです。
しかし、その成長を支えるVC(ベンチャーキャピタル)や専門家とのエコシステムにおいて、技術の価値を正しく守り、事業を加速させるためには、高度な「技術理解」と「知財法務」が不可欠です。
本記事で触れたような、知財戦略、ライセンス契約、資金調達を巡るタフなやり取りや交渉は、事前に専門家に相談することが望ましいでしょう。
※上記の事例は、以下の書籍から抜粋、再構成して紹介しています。
『オープンイノベーション時代の技術法務~スタートアップの知財戦略とベストプラクティス』(日本加除出版株式会社)
弁護士法人内田・鮫島法律事務所の代表弁護士/弁理士鮫島正洋 編集代表
2024年6月28日初版発行、pp.88~98参照