特許庁の「スーパー早期審査」とは、要件を満たすスタートアップからの特許出願について、平均約2.7ヵ月で権利化できる制度です。本記事では、スーパー早期審査をはじめ、費用負担を軽減する施策や伴走支援プログラムなど、スタートアップが活用できる知財戦略の支援策をまとめて紹介します。
特許庁では、資金面での制約が大きいスタートアップを対象に、特許出願にかかる手数料を軽減する制度を設けています。制度の対象となる条件は、法人であれば「設立後10年未満かつ資本金額または出資総額が3億円以下」で、大企業に支配されていないこと、個人事業主の場合は「事業開始後10年未満」であることが条件となります。
具体的な軽減内容としては、審査請求料や1年目から10年目までの特許料が通常の3分の1にまで引き下げられるほか、国際出願に際しても出願手数料等の3分の2相当額が交付金として支給される極めて手厚い仕組みです。また、2019年4月以降に審査請求を行う案件については、煩雑な証明書類の提出が原則不要となった点も、スピード感を重視するスタートアップにとって大きな利点となるでしょう。
特許庁のスタートアップ向け審査支援には、性格の異なる2つの制度があります。
「スーパー早期審査」は、対象要件を満たすことで平均約2.7ヵ月での権利化が見込める制度です。とにかく早く特許権を取得したいという場面に適しています。
一方、「面接活用早期審査」は、一次審査結果の通知前に担当審査官と直接面接できるのが特徴で、審査官との対話を通じてより戦略的な権利取得を目指せます。一次審査まで約2.3ヵ月、最終処分まで約5.3ヵ月が目安です。
申請手数料はいずれも無料ですが、スーパー早期審査を申請する際は、申請の4週間前からすべての手続をオンラインで行う必要がある点には注意が必要です。
参照
スタートアップ支援施策│特許庁
https://www.jpo.go.jp/support/startup/index.html
IPAS(知財アクセラレーションプログラム)は、創業期(シード・アーリーステージ)のスタートアップを対象に、ビジネスと知財それぞれの専門家からなるメンタリングチームが一定期間伴走支援を行うプログラムです。「知財戦略の必要性は感じているが、何から着手すればよいかわからない」というスタートアップに向けて、ビジネスモデルの構築から知財戦略の立案まで一体的にサポートします。
令和6年度よりINPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)へ移管され、現在は年に複数期の公募が行われています。
PASS(Push-type Assistance Service for Startups)は、令和6年4月から特許庁が実施している支援の仕組みです。従来の支援策はいずれも出願人側からの申請を前提としていましたが、PASSでは特許を出願したスタートアップやその代理人に対して、特許庁側から電話やメール等で直接コンタクトを取り、各種施策の活用を促します。
PASSを通じて特許庁から連絡を受けた場合は、通常であれば必須となる「早期審査に関する事情説明書」の提出を省略し、電話などの簡易なやり取りのみで「面接活用早期審査」へと移行することが可能になります。
海外での事業展開を見据えているスタートアップには、外国における権利化費用を補助する制度も活用できます。
本制度を活用することで、出願料や翻訳費用、さらには現地の代理人費用などのうち、最大で2分の1に相当する額の補助を受けることができます。対象となる中小スタートアップ企業であれば、単なる出願時だけでなく、審査請求や拒絶理由通知への対応(中間応答)にかかる諸費用についても広くカバーされます。
公募は年間を通じて複数回実施されているため、海外展開のタイミングを踏まえて申請を検討しましょう。
なお、この補助金制度は、令和7年度からINPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)が「INPIT外国出願補助金」として運営されています。
参照元:
海外展開に向けた権利化支援│特許庁
https://www.jpo.go.jp/support/startup/index.html#kaigai-tenkai
INPIT外国出願補助金│INPIT
https://www.inpit.go.jp/shien/gaikoku/index.html
海外権利化支援事業の終了と新事業のご案内│特許庁
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/kaigai-shien_new-business.html
資金と時間の双方が極めて限られているスタートアップにとって、特許庁やINPITが提供する多角的な支援施策は、知財戦略を空論に終わらせず現実の事業成長へと直結させる強力な武器となります。審査手数料を3分の1にまで圧縮できる減免制度をはじめ、平均約2.7ヵ月という異例の速さで権利化を目指せる「スーパー早期審査」、専門家チームが事業の根幹にまで踏み込んで伴走する「IPAS」、そして特許庁側から能動的に支援を提案する革新的な「PASS」など、申請のハードルを段階的に引き下げる複数の仕組みが多層的に構築されています。
将来的なグローバル展開を見据えるのであれば、外国出願に伴う諸費用の2分の1を補助する「INPIT外国出願補助金」の活用も重要な戦略的選択肢となるでしょう。
これらの公的制度をパズルのように組み合わせて戦略的に活用すれば、限られたリソースの下でも、事業の防衛線となる強固な知財ポートフォリオを着実に構築していくことが可能になります。
資力の限られているスタートアップ企業にとって、行政による補助金等の支援策を正しく使いこなすことは重要である。これらの支援策は時として、手続や要件が複雑だったりすることもあるが、特許庁ではそのような点についても配慮して制度を施行している。
バイオなどのスタートアップにとっては国際的な特許取得が必須となるが、その際に多くのスタートアップが利用するのが上述した「INPIT外国出願補助金」である。数百万単位の補助金となるので、タイミングによっては予算消化満了によって使えない場合があることにも留意しつつ活用を検討したい。