スタートアップ企業が他企業と共同研究や事業連携を行う際に、いずれの業種であっても知的財産に関する大きな課題となるのが「共願(共同出願)となる場合の権利の取り扱い」です。共願においては権利の帰属や持分の確定など、知的財産について重要な事項について相手方と慎重に交渉を進めなければならないため、スタートアップに対して行ったアンケートでも6割強が課題であると回答しています。
以下では、弁護士法人内田・鮫島法律事務所が実施した「技術法務」の事例を紹介しています。
スタートアップの技術に関心を持っているが、下請け相手の契約書ひな形から離れられない大企業を相手に契約交渉した事例です。
A社は、自社で開発したリチウムイオン二次電池の部材aの実用化について、大企業B社から共同開発を打診されました。しかし、共同開発に向けてB社から送られてきた契約書ドラフトの内容は、共同開発で発生した知的財産権の帰属等に関し、一方的に大手B社に有利となるものでした。
A社は、本共同開発提案の前に、B社からB社の二次電池と部材aとの適性に関するテスト業務を委託されましたが、その際のPoC契約においても知的財産権の帰属をはじめとしたいくつかの項目がB社に有利なものとなっており、修正を求めた経緯があります。
今日ではスタートアップ企業に知的財産権を帰属させることで、大企業側が結果としてオープンイノベーションによる利益を享受できるという考え方も広まってきてはいますが、長く大企業として君臨してきたB社は、従来の下請け相手の契約書ひな形をA社にも提示してきたのです。
まず、B社ドラフトは両者の共同で成した発明の帰属を、持分割合を均等とする共有としています。一見すると妥当なのですが、想定される共同開発の内容からすると、A社が単独で発明するケースが多くなりそうなので、そういう場合は、持分につき交渉すべきかもしれません。
次にA社単独発明の実施権について、A社はB社が異議を述べなければ実施できるとの記載がありますが、逆はありません。さらにB社ドラフトは、A社はB社またはB社の指定する者に実施の許諾をせよという条項を入れており、しかも本契約終了後も当該条項は有効であるとしています。
これらは非常に不当な制限といえ、少なくともA社は、B社との契約終了後は当該条項による制限をなくし、後者については「当該許諾についてはその可否について協議する」という文言に変更することを主張した方がよいでしょう。
共同発明の実施権についてもほぼ同様の内容でした。しかし、いくら共同発明とはいえ、あくまでも部材aをベースとした開発であることから、A社が他社と協業する可能性をB社との契約により不当に制限されることは好ましくありません。しっかり交渉すべきでしょう。
さらに、共同発明の実施許諾の場合の対価についても、B社ドラフトは等分に配分としていますが、持分同様貢献度に応じての配分とした方が公平でしょう。
なお、今回のようなケースでは。大企業側が交渉時に強硬な態度をとることもあり得ます。知的財産だけでなくスタートアップ企業についての知識と経験が豊富な専門家にも入ってもらい、丁寧かつ法的根拠を示して交渉を進めていくと安心です。


大企業とスタートアップが共同開発を進める際、知的財産の帰属についての交渉は、その後の事業の未来を左右する、非常に重要かつ慎重を要する局面です。
このページで紹介したケースのように、長年にわたって元請・下請の関係を築いてきた大企業は、これまでの慣習にとらわれ、自社に有利な契約条件を提示する傾向が見られます。例として、開発成果の知的財産をすべて大企業側に帰属させようとする契約条件が挙げられます。
しかし、オープンイノベーションが重視される現代では、大企業が一方的な条件を押し通そうとすると、スタートアップ側は協業を避けるようになります。さらに、その情報が業界内で広がれば、他の有望なスタートアップからも敬遠される可能性があります。
これは、大企業にとっても長期的な成長の機会を自ら狭めてしまうことになりかねないリスクなのです。
そのため、双方が納得できる公正な条件で契約を結ぶことが、持続的なパートナーシップを築くうえで重要となります。スタートアップ側においても、知財や契約に関する専門家の支援を得て、客観的かつ戦略的な根拠に基づき交渉に臨むことが、対等な関係を構築するための重要な鍵となるでしょう。
※上記の事例は、以下の書籍から抜粋、再構成して紹介しています。
『オープンイノベーション時代の技術法務~スタートアップの知財戦略とベストプラクティス』(日本加除出版株式会社)
弁護士法人内田・鮫島法律事務所の代表弁護士/弁理士鮫島正洋 編集代表
2024年6月28日初版発行、pp.135~158参照