スタートアップは小規模企業であることが多く、自社で開発した技術などの知的財産の展開や、更なる技術開発を迅速に行うために必要な資金の調達をどうするかが常について回る課題となります。
スタートアップへの出資を考えるベンチャーキャピタル(VC)や事業者などの立場からは、対象企業を、知財面を含めた多角的視点で評価し、出資の可否を判断することになります。ただ、スタートアップの場合、出資側が判断材料として求めるプレゼンテーションに精通していないというのが迅速な資金調達を阻む理由として挙げられます。
資金調達を求めるスタートアップは多いですが、出資者が事業者である場合、事業者の主な投資目的としては
などが挙げられます。そして事業者はこれらの目的達成のため、投資先に対し、「優越的地位の濫用」と評価されうる行為を行う場合があることに注意が必要です。
継続的な出資の条件として、秘密保持契約を締結せずにスタートアップに秘密情報の開示を求めるといったケースは優越的地位の濫用であると評価される余地があるでしょう。スタートアップとしては、ひるまずに秘密保持契約の締結を求め、それでも拒否するような事業者であれば出資を受けるべきではないでしょう。
また、秘密保持契約を締結した場合でも、事業者がこれに違反してグループ会社などに情報を漏洩することも考えられるため、コアな技術は開示を控えるか、開示するにしても特許を出願してからこれを行うというような対策を事前に考えておくことが大切です。
出資者が絞れたら、次は効果的なプレゼンテーションを考えます。
例えばDD(デューデリジェンス)を実施することは、スタートアップ側は効果的に資金を得るため、出資者側は出資の判断基準とするため、双方に有効な手段の一つです。
具体的には、出資者が出資に際し、スタートアップ側に出資の妨げとなったり、企業価値に影響を与えたりする法律上の問題がないかを発見する目的で行う法務DD、スタートアップの保有する知的財産を評価する知財DDが挙げられます。
法務DDではスタートアップ側の会社組織、株式、資産関係、コンプライアンス体制などの資料に基づいた検討の他、主要な共同開発先や取引先との契約書に関するリスクを評価していきます。
知財DDはスタートアップが保有している特許リスト(特許ポートフォリオ)やそれらにまつわる契約関係書類を提出し、レビューなどを行います。特許ポートフォリオは量より質が重要です。有効に存続し、スタートアップの現在のビジネスをカバーしている特許であるかをしっかり確認しましょう。
そのうえで、出資者側に特許の内容及び上記の点を分かりやすく説明できるプレゼンテーションを行うことが重要です。これによって、出資者が出資判断を明確にできるようになるはずです。
自社保有特許以外でも、専用実施権などの独占ライセンスを許諾されている場合はアピールポイントとなるので、この点の説明も必要となります。
なお、資金調達が決まったら、調達方法についても確認しましょう。
主な資金調達方法には、株式の発行によるものと、金銭での融資を受けるものがあります。後者は担保となる財産が必要だったり、代表者が個人保証を求められたりすることがあるため、検討の余地が生まれます。
前者の場合、お勧めは「種類株式」の発行です。議決権を有しない種類株式を設定すると、企業側が保有する株式が希釈されることを防げますし、出資者の企業経営への関与に関して、出資額と切り離した交渉ができる、企業の成長段階に応じてその都度株主の種類が変更できるなどのメリットがあります。


特許の詳しい内容を読む前でも、特許リストを見るだけで多くの情報を読み取れることがあります。
たとえば、特許リストを確認することで、デューデリジェンス(DD)の際に注意すべき重要なポイントが見えてきます。
●特許番号1の特許が大学名義であれば、それは基本特許と考えられる可能性があります。その場合、Z大学とどのような契約を結んでいるのか、ライセンス条件等を詳しく確認する必要があります。
●特許番号2は、当社独自の基本特許と考えられます。内容は触媒や燃料電池に関するものであり、さらにその10ヶ月後に出願された特許番号4がその製法に関する改良特許であることから、開発が順調に進んでいたことが推察されます。
●また、2020年頃には事業会社Bとの共同開発が行われていたことが特許番号6から読み取れますが、最近は共同出願が見られないため、この変化が何を意味するのか、開発の進捗状況を確認するためのヒアリング項目に含めたほうがよいでしょう。
●さらに、2022年頃からはCTOが発明者として出願した燃料電池のパッケージ材に関する特許(番号7・8)も出ています。基本特許から燃料電池への応用、そしてパッケージ材の開発という流れが見えてくるため、今後の事業計画と知財戦略がきちんと連携しているかを確認することが大切です。
このように、単なる特許リストから事業の全体像や潜在的リスクを読み解くこと。
こうした多角的な分析視点で、事業の本質を正確に見抜くためには、知財分析に長けた専門家の知見を取り入れることが、有意義なアプローチと言えるでしょう。