一般的に、オープン&クローズ戦略とは「どの技術を公開(オープン)し、どの技術を秘匿・独占(クローズ)するか」という知財管理の手法だと思われがちです。しかし、本来この戦略の本質は、単なる情報の取捨選択ではありません。
その真の狙いは、「他者の資本によって市場を広げ(オープン)、広がった市場において自社が確実に収益を得る仕組みを構築する(クローズ)」という、一見矛盾する二つの目的を同時に達成することにあります。
本戦略は、自社の事業を以下の2つの領域に切り分けることで、実利を最大化させます。
オープン戦略のメリットは、自社一社のリソースでは不可能なスピードで市場を広げられる点です。他社に技術を使わせることで、エコシステムの価値が高まります。ただし、単に広める(オープンにする)だけでは、多くの競合の参入を招き、「ビジネスとしては負けている」状態になるリスクがあるため、必ずクローズ戦略とセットで設計する必要があります。
クローズ戦略のメリットは、単に「模倣を防ぐ」ことではありません。その本質は、「拡大した市場に流入する投資(お金)を自社に寄せる仕組み」を作ることです。
単に「秘匿(ブラックボックス化)する」ことをクローズ戦略と呼ぶのは、知財マネジメント上の手法に過ぎず、ビジネス戦略的な意味でのクローズとは異なります。同様に、特許出願は知財マネジメント上の「オープン」に過ぎず、ビジネス戦略的な意味とは異なります。(下表参照)
| オープン | クローズ | オープン/クローズの関係 | |
|---|---|---|---|
| 知財マネジメント | 特許出願 | ブラックボックス化 | 両立しない |
| ビジネス戦略 | ライセンス提供 | シェアを落とさない(狭義) | 両立が必須 |
知的財産マネジメントにおいて一般的に提唱されている「4つの類型」を整理しました。これらは、自社の技術を「オープン(共有)」にするか「クローズ(独占)」にするかの組み合わせで分類されます。今回は独自に収益化の視点から再定義しました。
技術を標準化し、市場を創出します。ここでの成功は、標準の普及そのものではなく、その普及によって自社に還流する「収益」が設計できているかにかかっています。
仕様は公開して市場を広げますが、それを安く、あるいは高品質に作れるノウハウを「収益源」としてクローズ化します。これにより、他社が参入すればするほど、自社の製造技術の優位性が利益に直結します。
自社のコアな収益源(クローズ)を補完する周辺ツールを公開(オープン)し、エコシステムを構築します。他社の参加を促すことで、結果的に自社の「収益の袋」を盤石にする戦略です。
自社が圧倒的に有利な評価基準を「ルール(オープン)」として普及させ、自社の高付加価値製品が選ばれ、高値で売れる(クローズ)環境を整えます。
技術法務の観点から見ると、オープンとクローズはビジネスの文脈で以下のように定義されます。
昨今の標準化活動(オープン化)においては、「必須特許を何件持っているか」という点ばかりが注目されますが、それだけでは「幾ばくかのロイヤリティ(権利使用料)を得るだけで、製品ビジネス全体では負けてしまう」という事態が起こり得ます。
真に重要なのは、「標準化(オープン)」と「収益化(クローズ)」を両立できる戦略的人材を育成し、最初からマネタイズの出口を設計しておくことです。
コード自体を無償開放(オープン)して世界中に普及させ、市場を爆発的に拡大させました。同時に、読み取り技術(クローズ)を徹底的に磨き上げ、リーダー端末などのハードウェア販売や関連システムで莫大な収益を回収しました。
特許をあえてオープンにしてデファクトスタンダードを狙い、市場を広げました。一方で、その特許だけでは決して再現できない高度な「製造ノウハウ」をクローズ化し、実質的な世界シェアと利益を独占し続けています。