発明を奨励し、技術の飛躍的進歩を実現することで産業の発達に寄与するためには、「発明の奨励及びその保護」が大切だという理由から(特許法(以下「法」第1条参照)、登録を受けた特許の侵害行為につき、特許者に差止請求権(法第100条)や損害賠償請求権(法第102条、民法第709条)を与えています。さらに、侵害行為が悪質と判断されれば、刑事罰として最長10年の懲役または1000万円までの罰金(併科もあり・法第196条)が科せられることもあります。
また、法の規定だけでなく、特許権侵害行為により企業の信用が失われる、取引に影響を受け事業継続が困難になるという、企業存続の危機に見舞われるリスクも生じます。
企業としては、自社の知的財産権を守ることはもちろん、他者の知的財産権を侵害しないよう注意する必要があります。一方で、万一特許権侵害を指摘された場合には冷静かつ毅然とした対応をとることも大切です。
以下では、弁護士法人内田・鮫島法律事務所が実施した「技術法務」の事例を紹介しています。
客先から特許侵害の懸念を示された例です。
化学品・素材メーカーであるA社。ある日、取引先からA社の製品aが、A社の同業であるB社の特許権を侵害しているのではという問い合わせを受けました。A社はB社と友好的な関係にあり、正に寝耳に水の出来事です。しかし今回の連絡はB社からA社の取引先に対してなされており、A社としては取引の信用に影響があってはならず、何らかの対応を採らなければなりません。
本事例でB社が侵害されたと主張する特許を確認したところ、巧みに特許要件を充たすように見せつつ、A社が従来から販売してきた製品aをカバーしている形(製品aはB社の特許の範囲内にある)形となっていました。B社の特許出願日は8年前、A社が製品aの製造販売を始めたのは10年ほど前であることから、そもそもB社の特許は出願前に公然実施されていたとして無効の可能性があります(法第29条1項)。
A社の対抗策としては、B社に対して、特許無効の主張をすることが考えられますが、その際B社の特許が公然実施されていたという証明(A社が製品aについて10年ほど前から製造販売していた事実)はA社が行わなければなりません。
証明の方法としては、まず、
を行うことが重要です。可能であれば、
することが必要であり、必要に応じて、
などを行わなければなりません。
本事例では、A社は製品aのサンプルは残していなかったものの、当時の製造条件にかかる記録を発見し再現した上、その製造条件にて当時の製品aの試作したデータまで作成することができました。
当該データに基づき、A社内部用、及び、A社の秘密情報を秘匿した外部用にかかる2種類の鑑定意見書を作成し、後者を問い合わせのあった取引先に提示したところ、無事信頼が回復でき、継続取引の運びとなりました。
本事例では、B社からA社に直接差止請求などがなされなかったため、特許無効の主張までには至らず、解決となりました。取引先からの疑義には迅速かつ誠実な対応が必要なため、特許権の最新判例や実務を熟知した専門家に相談すると安心です。 また、念のため製品の開発記録や当時のサンプルは保管しておくようにしましょう。


第三者から特許の侵害を指摘された場合、深刻な経営リスクとして対処すべき問題になります。
まずとるべき対応として、問題となっている特許の範囲を法務・技術の両面から精査し、自社の製品や技術が本当にその中に含まれるのかを厳密に確認します。
その上で、必要に応じて設計を変更して回避する、特許が無効であることを主張する、あるいは先に自社で使用していたことを根拠に先使用権を主張する、といった対抗策を戦略的に検討します。
相手側が自社の特許を侵害している場合には、対抗特許を主張することも有力な交渉カードとなり得ます。交渉が難航する場合は、ライセンス契約を結ぶことも事業上の選択肢の一つです。ただし、交渉が成立しない場合には、最終的に販売停止を検討しなければならないこともあります。
本記事の事例では、特許出願より前から該当製品を販売していたことを証明することで、特許が無効である可能性を指摘し、問題を円満に解決しました。
このように、過去の製品販売や開発経緯を証明できる資料があれば、特許の無効を主張できる可能性があります。
万一のリスクへの備えや、実際に紛争へ発展した際の対応など、知財と経営のリスク管理には高度な専門性が求められます。 そのため、特許侵害の警告書を受領した際や、その懸念が生じた段階においては早期に専門家へ相談することが望ましいでしょう。
※上記の事例は、以下の書籍から抜粋、再構成して紹介しています。
『技術法務のススメ~事業戦略から考える知財・契約プラクティス』(日本加除出版株式会社)
弁護士法人内田・鮫島法律事務所の代表弁護士/弁理士鮫島正洋 編集代表
2022年7月第二版発行、pp.411~415参照